耐震偽装問題は発覚後2ヶ月を経過し、国会における証人喚問により、事件の概要が明らかになりつつあります。計算書を偽造した元建築士が、自分が行った行為に対してまるで他人事であるがごとくの第三者的な答弁やテレビインタビューを聞き、大きな憤りを覚えております。これは明らかに犯罪であると言えます。
当協会は同元建築士と同様の構造設計専業事務所が集まった協会でありますが、私どもの建築設計活動は事件とは全く別次元であることを宣言し、今後も協会の目的である「構造技術の発展を図り、社会へ貢献する」ことを原点として活動することを明確に致します。
しかし、アンケート調査などにより一般の方の構造設計に対する不信感が生じてきたことも否定できない事実となっております。さらに、構造技術者が経済設計の目的に対して、圧力を感じて業務を行っている現状もあることが明らかとなってきました。
当協会はすでに、社会的不安を払拭するために、建物の再検討など構造技術者がいま行わなければならない職務に対して積極的に取り組むことを公表しておりますが、ここにおいて、構造設計専業事務所として今後設計する建物に対しての基本理念について述べるものであります。
建築の設計は意匠・構造・設備の三者がグループを組んで設計する形態となっています。施工も多くの職種の技能を集約させてこそ可能となります。これは建築が日常生活用品などと異なり大型の商品で唯一・無二また数十年以上の使用年数であるために、このような大規模な重層構造の組織が必要となります。建設産業就労者は労働人口の1割にあたる約七百万人で、戦後の日本の経済発展を支えてきたといって過言ではないと思われます。したがいまして、この度の事件は建築構造界のみではなく、日本の社会的、政治的な問題としての解決が必要であります。
次に建築設計に限定しますと、設計はデザイナー(意匠)とエンジニア(構造、設備)が協力する十分なチーム体制のもとで、鋭い感性と技術により遂行できるものです。基本計画段階から実施設計、施工段階までチームではいかなる建築を世間に創造するか幾多のディスカッションを行い、社会資本となるべく良質な建築創造に全力を注ぎます。業務量の大きさや複雑さによって、チーム内のみで行うことが出来ず、協力を仰ぐ(外注)ことも必要となります。
当協会会員事務所は建築主より発注をうける設計者として、前述の設計チームに参画する場合と、上に述べました重層構造の一部とした場合の必然性から協力設計者であることの両方のケースがあります。
いずれの場合においても、エンジニアとしての自覚と誇りを持って設計に当たることが肝要であると考えます。
しかし、倫理観に基づいて自覚と誇りを持っていると自認しても、その有無を自他共に確認する方法がなければ、一般に対する証明とはなりません。そこで具体的方法として、次のような提案をします。
T 建築主、設計パートナーに対する情報公開
1. 構造設計事務所の運営方針
2. 構造設計に対する考え方
3. 技術の研鑽方法
4. 代表者の経歴
5. 取得している資格
6. 所属している団体
7. 代表作品とその設計方針
8. 今回設計する建築に対する思考と設計方針
U 国家資格の改定
建築士を建築士、構造士、設備士に分ける。
または、建築士(意匠専攻)、同(構造専攻)、同(設備専攻)に分ける。
V 確認申請の改定
確認申請を意匠確認申請、構造確認申請、設備確認申請に分ける。
Tの情報公開により、構造設計者の理念、技量が明確になります。技術向上志向があがり、構造設計全体のレベルアップが図れます。
Uの国家資格の改定により、専攻分野における義務および責任が明確になります。
Vの確認申請の改定により、設計内容の義務および責任が明確になります。
全項目より、構造設計者の社会的認知が向上し、自覚と誇りを持って設計に当たることとなります。構造設計が建物の安全性確保という重責を担った縁の下の力持ちであることの本来の意味が明らかとなるものと考えられます。
以上、構造設計専業事務所としての基本理念、期待される役割について考え、これを具体化するための改善方法を一試案として提示し、多方面の議論を喚起する端緒としたいと思います。この度の耐震偽装事件が建築設計の問題点を大きく変革させるきっかけとなり、より良い方向に向かって邁進するよう努力する所存です。 |